短篇

□落涙の美
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突然に声を荒げた博雅に、周りは驚いていた。
帝までもが息を呑む。
「今日は晴明があのような態度をとる理由がよく解りました。失礼いたします。」
博雅は深く頭を下げると、勢い任せに外へ出ていってしまった。
「博雅殿!」
後ろから慌てて呼ぶ声がしたが、無視した。
晴明の悪口を言うほうが悪い。
晴明はああやって言われながら暮らしているのかと思うと余計に腹が立った。
しかも容貌だけは良いだなんて、失礼にも程がある。
誰も、晴明の本当の所を知らない。
知ろうともしない。
分かっているのは自分だけなどとあの殊勝な博雅が豪語してしまうほど、晴明の評判は良くなかった。
憤りを感じると共に、博雅にはそれが哀しくて仕方なかったのである。


―――――


夜が明け、日の光が博雅の目を覚ました。
当の昔に朝は過ぎており、今はもう昼過ぎである。
昨夜は時間が遅かったのと怒っていたのとであまり眠れなかったから、今回ばかりは寝坊も仕様がない。
「噂は、晴明も聞いてしまっただろうなぁ…」
きっと昨日の一件はすっかり噂となって広まっているだろう。
お咎めがあってもおかしくないとは思っていたが、博雅は別に自分のことなどどうでも良かった。
また口々に悪口を言われたことを晴明は知ってしまったのではないかと心配しているのである。
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