短篇

□ひとのよばふは。
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話の内容をまだ把握していない博雅だけが、その状況に乗れずにいる。
しかも真面目で晴明や保憲のように人をからかうような癖も無い博雅は、この二人が組んでいる以上相当な鬼が関係しているのだろうに、何故ここで笑うのかと訝しげに眉を寄せていた。
それに気付き、保憲は思い出したように話の続きを始める。
「まぁお察しの通り、鬼絡みなのですがねぇ、これが面白い話で…」
その男は、屋敷へ上がるなり助けてくれと頭を下げた。
『唯一度の道楽と思い、笛を吹いたのが運のつきでございました。』
先日、あまりに美しい満月であったためについ笛を持ち出してしまったのだと男は言う。
自分で吹いたとはいえ、誰もいない山中に響く龍笛の音に男はしばらく酔い痴れた。
その時である。
『いやぁ、なかなかの音でございますなぁ。』
現われたのは若い美男であった。
抜けるような肌に紅い唇が印象的で、小さく手を叩いている。
「まるでお前達二人のようだなぁ、晴明よ。」
話していてそれに気付いたらしく、保憲は悪戯をする子供のような目で二人を見る。
「その話では冗談にならないのですが…」
最後まで話を知っている晴明は困ったように苦笑した。
わからない博雅は不思議そうに首を傾げる。
「どういう事だ、晴明。」
「聞いておればわかる。」
晴明はうんざりしたように答えた。
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