短篇

□ひとのよばふは。
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「あぁ、急いでおるよ。」
そしてふざけたように笑っている。
博雅に言わせれば、ふざけているのは晴明の態度ということなのだろうが。
「その態勢で言うことではないだろうが…」
「そうか?」
ならば起きようと、晴明はまたゆったりと体を起こす。
「お前なぁ、そうやって人を食ったような態度をとるから…」
「内裏で嫌われる、か?」
博雅が全て言い終わらぬ内に、晴明が聞き飽きたと言わんばかりにそれを遮った。
「別に俺は誰に嫌われようが一向に構わん。嫌われてはいるが、腕は買われているようだからな。」
俺は仕事が上手くゆけばよい、と笑う。
「それに、ちゃんと俺を好いてくれる御方もおるしなぁ?」
「――そこで俺を見るな…」
悪戯っぽい晴明の目線の先には、顔を真っ赤にした博雅がいた。

そんな時であった。

「取り込み中であったか?晴明。」
豪快な笑い声。
黒い狩衣。
そして、黒い大きな猫又。
「いいえ。遠いところを申し訳ございません、保憲様。」
賀茂保憲。
大変名のある陰陽師であり、兄弟弟子ということで晴明とも交流が深い。
その保憲がわざわざ晴明の所を訪ねてくるという事が、どういう事なのか。
それ位は鈍い博雅にも察しがついた。
「いやぁ、相変わらず仲の良いことだな。」
羨ましいことだ、と保憲は本来の目的をはぐらかすように笑っていた。
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