短篇

□客人
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「お言葉ですが、この晴明、今のお話をお受けすることは出来ませぬ。」
晴明はそう言って、深く頭を下げた。
それを聞いた保憲の顔は、穏やかだった。
「まぁ、わかってはいたがな。」
「すみませぬ…」
「いや、良いのだ。お前が幸せなら、俺はそれで十分だよ。」
優しい、保憲の言葉に、晴明は美しく笑んだ。
「晴明は幸せでございます。」
「そうか。」
「これからも、酒を飲みにいらっしゃいませんか?」
「あぁ、来よう。」
保憲は、ばっと立ち上がる。
「今度はお前の旦那も一緒ぞ、晴明よ。」
そしてまた、意地の悪そうな、しかし楽しそうな笑みをたたえ、晴明宅を去っていった。


保憲が晴明の家を出ようとしたとき、例の男と鉢合わせた。
「おぉ、保憲殿ではありませぬか。」
博雅である。
「また何かあったのですか?」
本当に心配そうに聞いてくる博雅を見て、保憲には晴明の気持ちが何となくわかった。
「いや…晴明と、世間話をしていただけですよ。」
「そうですか…良かった…近頃、何かにつけてすぐ陰陽師が呼ばれるので、保憲殿や晴明が大変だろうと心配していたのです。」
「いやいや、私は…もう第一線は退いておりますから。」
それより、と保憲は博雅の肩をぽんと叩く。
「博雅様。晴明を、大切にしてやってくださいませ。私は貴方様を信じておりまするぞ。」
耳元で囁かれ、一瞬固まってしまった博雅だが、すぐに背筋を伸ばし、
「勿論です!お任せください!」
大きく一礼した。
この男なら任せられよう。また保憲はにやりとするのだった。



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