短篇

□客人
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保憲は、口に酒を運びながらにこにこして言った。
「俺は昔から、お前が羨ましかったよ。幼い頃から才能があって、美しくて。」
「保憲様も才がおありだったと聞きましたが。」
「まぁな。」
晴明の言葉を、保憲は否定しない。
「確かに、俺は人より早く鬼は見えたし、この道に入るのも早かった。しかし所詮それも“人並み以上”だ。お前にはかなわぬ。」
それに、と保憲は続ける。
手には肴の干した鮎が掴まれていた。
「俺にはどうも、陰陽師という職種は向いていないらしい。俺はお前と違って勤勉ではないからな。お前が一生懸命、書を読むのを見るたびに、やはり随一の陰陽師となるのは俺ではなく晴明だろうと思っていたよ。」
当たっただろう、と保憲は鮎を丸ごと口に頬張った。
「自分に無いものを持っているお前を、羨ましいと思うにつれ、だんだん愛おしくなってきてな。微細なお前を、兄弟子として守らねばと妙な使命感に捕われていたこともあったよ。」
もちろんそれは、いらぬ心配だったのだが。
「どうだ、晴明。考えてみぬか。」
思いの外、そう言った保憲の顔は真剣だった。
晴明も最初ははぐらかすつもりだったのだが、珍しく真面目な保憲を見て、そうもいかなくなった。
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