短篇

□春に舞う。
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「博雅さま!」
博雅の後ろでは早く早くと小菊が急かしている。
板挟みだ。
すっかり困ってしまった博雅が、うーんと唸っていると、
「小菊、博雅はこれでもお客さまなのだ。迷惑を掛けてはいけないよ。」
晴明が静かにそう小菊をたしなめていた。
これでもとはなんだ、と博雅は心の内で憤慨したが、助け船を出してもらっておいて怒るのも難なので、決して声には出さなかった。
代わりにさっきまであれほど元気だった小菊ががっくりと肩を落としてしょげている。
「晴明様、でも…」
「小菊。」
「…ごめんなさい。」
小菊がおとなしく頭を下げるのを見て、晴明はよし、と言うと何事もなかったかのように踵を返す。
いや待て。
それはおかしいだろう。
「おい、晴明。」
「なんだ。」
「俺にまず言うことがあるだろう。」
「…酒なら先日の残りがあるが。」
「そうではない!」
博雅はたまらず声量を上げた。
「この小菊という娘はどこの子だ!どこの!」
声をはる博雅に、晴明は目を丸くしていた。
「なんだ、まだ聞いていなかったのか。」
「初対面だぞ!」
「いや、すまん。随分と仲が良いようだったからな。小菊、博雅にご挨拶しなさい。」
「はい!」
晴明の限りなくあっさりとした言葉に、小菊は元気良く返事をした。
「小菊と申します、博雅さま。」
「お、おう…」
「兄弟とはぐれて困っていたところを、晴明様に助けて頂きました。しばらくここに置いて頂くの。」
小菊はそう言って、博雅へにっこりと無邪気な笑顔を向けていた。
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