短篇

□風夢
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今日の晴明は機嫌が悪かった。
いつもなら、どんな相手にでも一応は丁寧に謙虚に対応している彼が、今日はどこか失礼であり品が無いことに気付かない者はいなかっただろう。
そしてそれはますます晴明から人を遠ざける結果になったが、もとより外聞など気にもしていない晴明には関係が無かった。
先程耳にした話が、先程目にした光景が、頭をよぎるたびに、ふつふつと沸き上がる激しい感情を抑えるのにただただ必死だったのである。


今朝、晴明は久々に参内していた。
別に陰陽寮の仕事があるから行ったわけではない。
呼ばれたから行ったまでである。
「晴明、そなたならわかるでしょう。何故私のところへ帝が来てくださらないのか。」
「申し訳ございませぬが、この晴明にも人の御心まではわかりかねまする。」
御簾ごしに尋ねてくる姫君に、晴明は深々と頭を下げた。
「嘘をおっしゃい。どうせそなたも自分の身が心配でそのようなことを言うのでしょう。何でも視えると父上からも聞いておりますよ。」
「私に出来ることなど高が知れておりますれば。」
尚も訴える気の強い姫君に、晴明は小さく笑む。
姿は見えずとも、晴明が笑ったのは彼女にもわかったのだろう。
がたん、と音がして、今まで座っていた姫の影が急に伸びる。
「わかりました。そなたのことを父上にようく話しておきましょう。」
そう言い残すと、姫はその場から去っていってしまった。
怒らせてしまったことを反省しないでもないが、致し方あるまい、と考え直し、口元にあるかなしかの笑みを称え、晴明もその場からそそくさと退散したのであった。
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