短篇

□迷い子
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「晴明…」
ある晴れた穏やかな日のことである。
博雅はいつものように、片手に酒の瓶子をぶら下げて晴明の邸へやってきた。
いつものように蜜虫に迎えられ、当然のように濡れ縁へ向かう。
しかし、今日は濡れ縁にいたのは晴明だけではなかった。
「まさか、おまえの子ではないだろうな。」
晴明の隣には、十かそこらの男の子が座っていた。
色白で、とても整った顔立ちの子で、二人で並ばれるとまるで親子のようである。
「そう見えるか?」
博雅がいくら慌てていようが、晴明は相変わらず涼しい顔をしていて、うっすらと笑みすら浮かべていた。
「可愛い子だろう。目の辺りは俺似だな。」
「晴明!」
「馬鹿、冗談だ。」
「な…っ!!」
またからかわれたのだと気付き、博雅は真っ赤になった。
「お前では洒落にならん…」
晴明は散々陰口をたたかれているわりに、女はもちろん、男にも変に好かれていた。
誰だって、あれだけの美男に声をかけられれば嫌な気はしないだろう。
子供の一人や二人、いたっておかしくないのだ。
ただでさえ心配なのに、本人の口から言われてしまったら、信じてしまうに決まっている。
「あまり俺をからかわないでくれよ、晴明。」
騙されやすい質なのだからと博雅が口を尖らせると、晴明は、
「それは悪かったな。」
と言いながらも、特に反省している気配もなく、楽しげにけらけらと笑っていた。
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