短篇

□ひとならざる。
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「これは珍しい…」
夏である。
日はじりじりと照って、たまに吹く風はむっと暑い。
ひとり濡れ縁に座し、そんな風をまともに浴びながら、晴明は小さく呟いた。
「この暑いときに…ご苦労なことだな。」
それは一条戻り橋に感じた気配に対して、である。
晴明がくす、と笑みをこぼすと、はかったように蜜虫が現われた。
すこし、困っているような表情である。
「晴明様、」
「あぁ、わかっている。大丈夫だからお通ししなさい。それと、蜜夜。」
「あい。」
晴明に呼ばれ、どこからともなく、すっと蜜夜がやってくる。
「桶に水を汲んでおきなさい。」
「承知いたしました。」
蜜夜は深く頭を下げると、いそいそと井戸の方へ向かっていく。
そんな蜜夜を眺めながら、晴明はまた、ふっ、と小さく笑った。

迎えるべきひとが現われるのに、そう時間はかからなかった。
いや、ひと、と言うのは少々語弊があるかもしれない。
晴明の前に現われた男は、切れ長の目をしている、鋭敏だがどことなく野性味を帯びた男であったが、後ろから見れば毛の生えた長い尾がずるずると引きずられていた。
「何も、こんな真っ昼間に来ることはないのではないか?」
未だ一言も発せぬ男に、晴明は静かに言った。
その言葉の端には何となく嫌味も垣間見える。
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