短篇

□はるやはる
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冬である。
美しかった花も、葉も、皆先日散ってしまった。
代わりに身に染みるような冷たい北風が勢いを増し、山から京へと引っきりなしに吹き下ろす。
嫌だなぁ、と博雅は思う。
冬とて確かに美しいのだ。
気温が低いほうが夜空は綺麗であるし、それに雪でも舞えば、寒さなど忘れて延々と笛を吹いていられる気さえする。
しかしこの初冬という頃は、博雅もどうも虚しくなってしまうのだ。
ほとんど葉の無い木に、その最後の一枚までも散らそうと強い風が吹き付けているのを見ると、あぁ、どうして、と命のはかなさを感じてしまう。
じん、と胸の奥でこの世の諸行無常を感じ取りながら、感慨深そうに博雅は晴明の邸へと向かっていった。
「ここはもっと淋しいな。」
晴明の荒野のような庭からは、本当に何もなくなっていた。
この前までは桔梗が綺麗だったのに、と博雅は哀しそうに眉を歪める。
「また何を痛み入っておるのだ?」
「へ?」
突然聞こえた男の声に、博雅は辺りを見回した。
誰の声なのかはすぐわかる。
しかしその男の声であるのが問題だった。
「晴明…いい加減にしてくれ。何なんだ、毎回。」
「別に。俺も忙しいというだけさ。」
そう言って姿を現したのは、美しい毛並みの白猫だった。
どことなく晴明に似ているのがまた嫌である。
「晴明、お前はいつになったらその悪趣味な出迎えを止めてくれるんだ?」
博雅は白猫の歩むほうへ付いて行きながら、はぁ、と深い溜息を吐いた。
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