短篇

□宵狂い
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結局走って邸に着いた晴明と博雅は枕を並べ疲れて寝ていた。
いや、寝ているはずだった。
「はぁ…」
晴明は眠れなかった。
隣で博雅はがー、がーといびきをかいている。
しかも酒臭い。
眠れないのは絶対こいつの所為だ、と晴明は思った。
どうせ眠れないならと体を起こして博雅を見やると、掛けたものをすっかり足元へ追いやっていて薄い単衣もはだけていた。
「これでよく風邪をひかんな…」
博雅の寝相の悪さに呆れながらも、何だかんだで博雅を気遣っている晴明は、せめて布団ぐらい掛け直してやろうと立ち上がる。
そっと足首の辺りにからまっている布をとって、起こさないようにぐっすり眠る博雅にかけてやった。
その時である。
「ん〜、せいめい〜っ」
「…っ!」
寝言と共に手首を握られて晴明は息を呑んだ。
先程のことが頭に浮かんで、頬をぱっと朱に染める。
幸い、博雅が寝返りを打ったのですぐに手は離れたが、晴明は博雅の床の側に膝をついて座ったまま固まってしまった。
「なんてことをしてくれるんだ、お前は…」
それを拍子に晴明のなかには折角忘れかけていた興奮が完全に舞い戻っていた。
とくん、とくんと胸は高鳴り、あちこちがじんわりと熱くなる。
それが何なのか知っているから、どうにかしておさめたいのに、そう思って躍起になればなるほど体は欲に忠実になっていった。
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