短篇

□宵惑い
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晴明はこの状況に深く溜息を吐いた。
間抜けにも、自分より大きな男を肩で支えながら、人通りの少ない夜道を黙々と歩いているこの状況に。
しかも男は随分と酔っ払っているらしい。
その所為か歩みも進まず、どうにもこうにもなかなか邸に辿り着けない。
「おい、博雅!しっかりしろ!」
晴明はその男、もとい博雅の背を叩いて叱咤したが、情けない返事が返ってくるだけで何の効果も得られなかった。
結局、うんざりしながらも博雅を引っ張っていくしかなかったのだった。

今晩は随分と月の綺麗な夜だった。
満月でないのは惜しいが、それでも雲一つない良い夜である。
この良い夜に、月を肴に酒でも飲もうと言ったのは博雅のほうだ。
博雅が酒の瓶子を三つもぶら下げてやってきたのにはさすがの晴明も驚いたが、折角だからと邸を出てよく月の見えるような小高い丘で飲むことにしたのだ。
最初は風流な話をしながらゆっくりと酒を楽しんでいたのだが、しばらくすると、何の弾みか、博雅に急に勢いがついてしまった。
自棄になったように酒を呷る博雅を晴明は必死に止めたのだが、いくら言っても聞きやしない。
ついには持ってきた酒のほとんどを空けてしまった。
博雅も決して酒が弱いわけではないが、これほど飲めば酔うのも当然である。

「まったく…どうしたんだ、一体…」
きっと何か嫌なことがあったんだろうと晴明は解釈したが、当の博雅がこんな状態では何があったのかも聞きようが無い。
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