短篇

□恋綴り。
1ページ/7ページ

それはまた唐突であった。
「博雅、お前、俺が女だったら嬉しいか。」
「ぶっ…!げほ、ごほっ…、何?」
あまりの質問に博雅は盛大にむせてしまった。
その勢いで、周りには酒の雫が飛ぶ。
「汚いな。」
「お前のせいだろうが!何なんだ、急に!」
いかにも嫌そうに晴明が眉をひそめるので、博雅はつい声を荒げてしまった。
それに晴明は、あぁ、と軽く答える。
「今日、出仕した帰りだ。」
「お前が?出仕?」
滅多にないことだと博雅は目を丸くした。
「俺も真面目に仕事をする時だってある。」
それに晴明は小さく溜め息を吐いてから、そんなことはいい、と先の話を続ける。
「とにかく帰りだ。帰ろうと思ったら、四、五人の男が丸くなって話していたのが見えたのさ。まぁ、いいご身分の方々なんだろうがかなりの大声で喋っていてな。何を話しているか丸聞こえだったぞ。」
「貴族というのは男も女もよく喋るからな。」
自分が貴族だというのをすっかり忘れて、博雅は呆れたように言う。
いつもならすぐに晴明が揚げ足を取りそうだが、今日ばかりはそれに静かに頷いた。
「それで、まぁ俺の話だったらしいんだが…向こうもお前みたいにどうせ俺は出仕せぬと思っていたらしくて、失礼なことを言っていたぞ、かなり。」
「一体何と。」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ