短篇

□下燃えの恋
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博雅がまた面倒事の種を持ち込んだのは、冬も終わりを告げる雪解けの候である。
晴明の自然のままの美しい庭では蕗の薹の可愛らしい芽を探すことも困難では無くなり、春の訪れというものをひしひしと感じずにはおれない。
冬の間、姿が見えなかった式神達も、ぽつりぽつりといつのまにか仕事に加わり始めている。
そのような小春日和の夕刻に、博雅は晴明と酒を飲みながら小さく溜め息を吐いていた。
「この世は面倒なことが多いな。」
博雅がそう言うと、晴明はそうだな、と短く答える。
いつもの濡れ縁で、いつものようにただ柱にもたれているだけであるというのに、今日の晴明は常より心なしか色っぽい。
細い首筋はまるで溶けゆく雪のように真白く、気怠そうに左に傾いでいた。
「何があった。」
先程から溜め息ばかりの博雅に、晴明は痺れを切らして静かに尋ねる。
「聞いてくれるなよ。」
博雅はそう言って跋が悪そうに苦笑いをした。
「お前に話したいのは山々なんだが、これを言うたらお前の気に障るだろうから。」
「俺は滅多に腹を立てぬぞ。」
「それはそうだがなぁ…」
博雅は今日、あんなに溜め息を吐いてしまったことを今更ながら後悔していた。
しかもこのことだけは晴明に悟られず自分だけで何とか解決しようと思っていただけに、痛い。
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