短篇

□いやよいやよも。
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秋である。
辺りの草木も、赤や黄色と艶やかに色付き始め、枯れたすすきが、かさかさと音を立てて揺れている。
自然の秋の野とは全くこの通りなのであろう。
しかしここはいつもの晴明の邸ではない。
「お前なぁ、くだらん事をするなよ。」
賀茂保憲邸。
賀茂家の陰陽師としては、父忠行すらも凌ぐという保憲が、頭を抱えて溜息を吐いていた。
原因はこの目の前に不機嫌そうな顔で座っている、この男。
「くだらないのは承知しております。」
折角の端正な顔立ちのなかの薄く色付いた唇をむ、と歪め、安倍晴明は怒っていた。
平静を装ってはいるものの、雰囲気から怒りが滲み出ている。
「しかし保憲様、私はもうあの男と顔を合わせとうありませぬ!」
「もともと共に住んでいたわけではなかろう…」
今日の朝のことだ。
客だというので保憲が出てみれば、式神に荷物を持たせた晴明がむすっとした顔で立っていたのである。
そうして言うが早いが、しばらくこちらに置いてくれと言ってあっという間にこの始末。
「旦那と喧騒するのは構わんが、頼むから俺まで巻き込まんでくれ。」
要は、晴明と博雅の夫婦喧嘩に巻き込まれた、と言うことだろう。
今で言う『実家に帰らせて頂きます』状態の晴明の“実家”役を、半ば無理矢理押しつけられたのである。
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