短篇

□しろきもの。
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初夏の候である。
晴明宅の庭では、草も木も青々と茂り、風にさわさわと揺れている。
そう書くと聞こえは良いのだが、言ってしまえば単に伸び放題荒れ放題なだけであった。
そんな中、博雅は、足繁く晴明のもとへ通っていた。
やはり暑いのか、額にはうっすらと汗が浮かぶ。
何をしたのか、健康的な肌は、すっかり小麦に焼けていた。
手には、土産に持ってきた瓜の籠がぶら下がっている。
「晴明、おるか?」
「博雅か。」
博雅が中に入ってみると、いつものように、晴明が柱にしなだれかかって座っていた。
相変わらずその姿は妖艶で美しいもので、博雅はついつい胸を高鳴らせてしまう。
全く焼けた様子のない白い肌には、博雅のように汗など見られない。
紅い唇は、楽しげに釣り上がっていた。
「暑くはないのか。」
晴明の横に腰を下ろした博雅の顔は怪訝そうだ。
「暑いさ。」
晴明はこともなげに答えた。
「だからお前も瓜を持ってきたのだろうが。」
「本当か。俺は確かに暑いが、お前は全然涼しい顔をしてるじゃないか。」
「見た目で判断するなよ。」
晴明はくすくすと笑う。 「見た目に騙されるようではいずれ身を滅ぼすぞ。」
「脅かすな、晴明!」
「本当のことだ。」
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