短篇

□客人
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突然の珍しい客だった。
「晴明。」
「保憲様。」
賀茂保憲である。
晴明の兄弟子であり、腕のたつ陰陽師でもある彼は、また面倒事が嫌いで有名だった。
頭は良いのに、その次にしなければならない地道な作業が嫌でたまらないのである。
なので今回もそういった類のことかと晴明は思っていた。
「また何事かございましたか。」
「いや、そうではない。」
意外にも保憲は首を振った。
「今日はお前に会いにきただけだ。」
「私に?」
「お前の家に来たのだぞ。他に誰ぞかおるのか。」
保憲はそう言ってくすくすと笑う。
「お前と世間話がしたくなったのだ。」
「そうですか。では酒など持って参りましょうか。」
あっさりと言う晴明に、保憲も、あぁ、と短く答える。
「蜜虫、酒を。」
「あい。」
それをかわきりに、周囲の式達が目まぐるしく動きだした。
「お前は本当に上手く式を使うな。」
保憲は、酒や肴を手際良く並べていく式達を見やりながら、感心と少しの嫌味をこめて言う。
「私がやっても良いのですが、保憲様を放っておくわけにはいきませんから。」
それを気にする様子もなく、晴明は淡々と答えた。
保憲はそれを見て楽しげに笑った。
「相変わらずお前は口答えが上手いよ。」
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