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□心中ごっこ
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高いビルの屋上に、有栖川 緑は居た。
フェンス越しに地面を見てゴクリと唾を飲み込み、覚悟を決めたように顔を上げる。
「飛び下りよう」
普通の人が聞いたら倒れそうな言葉だ。しかし残念ながら此処には緑しか居ない。
従って倒れる者も止める者も居ない。
「よいしょ…っと」
ガシャガシャと音を立てフェンスを上り、向こう側に行く。
「…高っ」
ビルの高さに緑は眩暈が起きるが、なんとか持ち堪える。そして向こう側の縁(ふち)に両足を乗せた。
「俺の人生、終わるんだな」
今まで歩んで来た長くない、けれど短くも無い人生を緑は振り返った。
しかし振り返った事で後悔が生まれたのか、緑は頭を左右に振る。
いよいよ飛び下りようとするのか、一歩前に足を踏み出す。
目を閉じそして、意を決したように体を傾けた。
重力に従って体は地面へと吸い寄せられる。
緑は来たる衝撃に備えてより一層固く目を閉じた。
心中ごっこ
(痛みの水底を漂流中、誰かすくって下さい)
うっすら開けた目には白い床が映る。
(あれ?コンクリートは灰色…)