宝物

□風の花びら
1ページ/2ページ

★風の花びら★
「寒いなカイジさんもう
帰ろうぜ」
年の瀬。
一体この行き交う人波は
どっから湧いてくるんだか。
「…お前が出かけようっていったんだろが…」
ぼそりとカイジは言った。
「なんか言ったか?」
「いいえ…」
今年最大の災難はコイツに出会ったことだろう。
犬もあるけば棒にあたる。一寸先は闇。
「年末最後のイベントだって入らねえの?」
パチンコ屋の前。
和也はチラシをみてにやにや笑う。
「いや…いい…金ない」
「おごってやるって」
「いいから」
一人なら絶対入る。
(オレが大負けしてじたじたすんのが見たいだけだろ…んとに悪趣味つーか…)
内心ため息を吐きながらタバコに火をつけた。
「お前さ…仮にもお金持ちの坊っちゃんなんだからこう豪華なパーティとか
屋敷であるんじゃねえの?盛大にカウントダウンとかさ。
出席しなくていいわけ?」それとなく切り出す。
「カカカカッ!!何をいうかと思えば」
和也は笑いながらばんばん肩を叩いてくる。
「痛い!!」
「あんなクソパーティみんな
媚び媚びの均一笑顔で
つまんねえよ」
やけにまじな顔だったから少しだけドキッとしてしまったりして。
なに年の差のあるガキにドキドキしてんだとか、あの兵藤の息子だぞだとか、俺もとうとう相当キテしまったとか、頭ん中ぐるぐるしてて。
「それに俺いなくなったらどうせアンタ寂しい年越し
だろ。気の毒っていうかさ」
「…大きなお世話だよ」
ため息を吐く。
でも悪くないなんて少し笑えたりして。
ふわり晴天の空に
風と共に雪が舞う。
「晴れてんのに…」
「風花だよ」
二人で空をみあげる。
「晴れた日に風と
一緒に降る雪…」
「カイジさんにしては物知りだな」
「一言余計だ」
カイジは赤面しながらぷいと顔を背ける。
「今年悪くなかったぜあんたみたいなやつに会えて」
和也はにっと笑うとカイジに唇を重ねる。
「うわっ…」
「来年も楽しませろよ。そばにいてやるから」
幸か不幸か偶然にも最悪な少年との出会い。
空を見上げる横顔は年相応の横顔で。
「約束したぞカイジ」
カイジは少し苦笑いする。
「わかったよ…」
握られる手。
空から降る花びらを
見上げながら今年最後の
ぬくもりをたしかめた…




.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ