CODE-440短編・ショートショート
□【バレンタインのキューピット】
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学校へと通じる道。彼女にとって通い慣れたこの道は、いつもと同じように横たわっている。しかし彼女には同じ道に見えるのだろうか。もしかすると景色は見えていないのかもしれない。
鞄を持つ右手から彼女の震えが伝わってくる。わたしは鞄の中から彼女を見守ることしかできない。もしわたしに言葉を話すことができるのなら、彼女に「大丈夫」と言ってあげられるのに。
彼女は静かに歩き続けた。彼女の周りには彼女と同じ学校を目指す生徒達が歩いていた。
男子達は昨日みたテレビ番組の話をしたりして盛り上がっていた。女子達はチョコを誰に渡すかと顔を赤らめながら話していた。
今の彼女にその声は届いているのだろうか。彼女はきっと外界から遮断された世界で、不安と戦っているのかもしれない。
不安は彼女に語りかける。
「ふられるくらいなら渡さない方がいい」
「ふられたら関係が悪くなる」
「今まで通りでいいじゃないか」
わたしは彼女に話しかけることはできない。
ただ祈り続ける。勇気をだして前に進んで欲しいと。そうでないときっと後悔すると。
「おはよっ」
不意に誰かが彼女に話しかけてきてきた。