【cool,boy】No.1
□【心…】
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玲と蓮は 近くのファミレス【delicious】に 席を落ち着けた。
「………」
蓮は 目の前で 幸せそうに チーズグラタンを食べる光を見て 唖然とする。
「…ん?…蓮さん ツナサンド食べないんですか!?」
「え…あ…いや…食べるよ…光の食べっぷりに 見とれちゃって……」
「もぐ もぐ…だって まだ二十歳前ですよ …俺 まだ育ち盛りですもん♪」
「二十歳前…か…光 今十九歳だったな?」
「はい…」
「……じゃ…俺がアイドルやってた頃と同じ歳だ……」
「! え?…蓮さん アイドルやってたの!?」
「ああ…もっとも 正統派アイドルじゃなくて 不良アイドルだったけどな」
「…不良アイドル」
「…そ…【紫苑】って名前だった…」
「…紫苑」
(あれ?…紫苑って…聞いたことあるな……いくら 芸能界に興味なくても 確かにどこかで聞いた名前だよ……)
「…新人賞を穫ったり…映画に出たり…で 不良ながらも 順風満帆だった……最初はね」
「………」
「だが…活躍すればするほど…人気が出れば出るほど…知らないうちに“紫苑”って名前に重みが出てきていたんだ…」
「…重み?」
「……良しにつけ 悪しにつけ…自分の行動の責任がついてくる……って事だよ……光」
「! あっ…」
(思い出した!!…紫苑って 確か暴力事件を起こした人だ……示談して 逮捕はされなかったけど…)
玲は 驚いた顔をして 蓮を見た。
「ふ…思い出したか?」
光の顔を見て 蓮は自嘲気味に笑いながら言った。
「…蓮…さん」
「…俺は…別に アイドルになりたくて なったわけじゃない…たまたま スカウトされて…とんとん拍子に デビューしちまったってクチなんだ…だから……プライドも何もなかった…周りからちやほやされて 天狗になって…バカやって……事務所やスポンサー テレビ局とかに散々 迷惑かけまくって…あの事件さ…」
「………」
「……………強姦されてた女の子を助けたんだ…………許されると思った……例え…相手の男を半殺しにしたとしても……」
「!」
(は…半殺し…?)
「………だが…世間は急に手のひらを返したように…180度…変わったんだ………血も涙もない悪人扱いさ…」
辛そうに話す蓮に 玲は胸が痛む。
「…蓮さん」
「……半殺しにしたとしても 相手は強姦犯人……示談には応じてくれたから…書類送検で済んだけどな…」
「……」
「…俺はマスコミに叩かれ ファンだった人達に叩かれ…芸能界を辞めた………一時は荒れた生活にもなったが……そんな時…三田村監督と会ったんだ……俺に…芝居やってみないか…って……天国と地獄を味わった俺なら いい役者になれる…って………だから……俺はこの世界に飛び込んだんだ…俺は今 名優を目指している…」
「………どうして……そんな話しをしてくれたんですか…?…蓮さんには…辛いはずなのに…」
「…光には…俺みたいになってほしくないんだ…だが…今の光には自覚が足りなさすぎる」
「え…」
「…光は演技が上手い…俺の見た若手の中じゃピカ一だ……しかも 雑誌モデルとしても トップクラスで…」
「…そんな」
「…台本をほぼ半日で 覚えてくるヤツなんて 俺は今まで見たことないぞ?」
「………」
「光は…光自身でも 気づかないほどの才能を たくさん持ってるんだよ…」
「………」
「…今 自分のいる立ち位置を把握して 行動 言動には 注意するんだ…………媚びとは違うんだが…わかってくれるかな?」
「………はい……“芸能人”としての自覚と…“光”としての自覚ですね……わかります……ありがとうございます…蓮さん…俺のために 辛い話しをさせてしまって……」
「………お前は俺のライバルに選んだ奴だ………だから光には潰れて欲しくなかった…」
「ライバル…?…俺が…蓮さんの…?」
(嘘…)
「ああ…」
「…俺…蓮さんに ずっとライバルと思ってもらえるように頑張ります!!…そして 蓮さんを抜かしてみせます!!」
「ああ…光……俺もお前に抜かれないよう 精進するさ…」
玲は 芸能界にいることの 大変さを知った。
知っていたつもりでいたが 実際は よくわかっていなかったのが実情で “光”という名前の威力 重み を考えさせられた いい機会でもあった。