少年部屋

□だって大好きなんだもの(未完)
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だって、大好きなんだもの。



















「えー!!」



俺は大声を上げ一枚の用紙を手に持ち席を立つ。






「オイオイ、こらこら。浮かれるなよ切原?」




担任の言葉に、アハハとクラスで笑いが起こる。





違ぇよセンセイ!え〜マジ?

や、分かってたんだけど。去年は楽しみにしてたんだけど。いざ『この時』が間近に迫ってきてたのかと思うと「た、大変だぁ!!」って思ったんだ。






国内か、海外か?






選択が迫られた去年。






どうしよ?でも最近の海外は怖いじゃん。大体、飛行機もコ…コワいじゃないか。

おー!そもそも英語がワカラナイ…。





話の通じる世界がいいじゃん。

電車がいい。新幹線でいいから国内に。ううん、センパイが見た色を俺も見てきたい。とかいう理由で国内を選択して記入したんだ。


その日程表を掴んで立っていた。楽しみ!よりも先立つのは…。




























「センパイ、センパイ!!」




俺は部活が休みなのをイイ事に。

HRが終わって即行で中学の校舎から付属の高等学校の校門へと駆けた。







ソワソワわくわく、ドキドキ待ってた。だって今日一緒に帰ろうって、昨日約束したもの!




待ち合わせ場所じゃなくて、校門前まで来てしまったけど…怒らない、よね?





すぐにでも掴んで、センパイの顔が見たかったんだもの。あ〜ワガママ!











ちらちら校門の塀の脇から中を覗いては、また正面を向いてドキドキの繰り返し。





そればっかやってたら、途中で


「…ふふふ、カワイイ」といった、大人っぽい女の先輩達の声がしたり。



「お!中坊がなにやってんだ?」

とか、からかわれたりした。


















「…あー!!」



ちらり覗いた瞬間、自分でも顔がパァっと。輝いて明るさが増していくのを感じた。








でも、じ〜っくりガマンして。









そのつま先がワクワクの視界に入った途端に



「柳センパイっ!!」


と抱きついていた。気が付いたら、体が勝手に動くんだ。



求めてんだから、俺の全てがセンパイの感触や香り、その他ぜんぶ。だから満たしてやんなきゃ!









「っ!」


勢いよく抱きついたものだから、柳センパイの足が少し後ろに下がって傾き掛けた体のバランスを取った。ビックりしたみたい。やった!センパイを初めて驚かせた!!





…ってのが思い描いていた図だったのに。


「いってーぇ!!」


ズサーっと、危うく顔面をタイル仕立ての地面に擦りそうになって本能的にアゴだけちょっと上げてサイアクな状況を免れた。というのが現実だった。

見事すっ転んでしまった。








「…すまない。ムダに反射神経が良過ぎて」


優しい声が上で響いた。

結構ヒドイこと言うよな。


別に「わぁ!驚いたぞコイツめっ!!」

とか言ってさぁ、抱きとめてくれた後に見つめ合って軽くデコピン、テヘヘっ!!なんて乙女な思考もしてないし期待もしてなかったけど。




「…ま、負けないっス!!」

これくらいでへこたれて堪るかっ!!


下唇をコッソリ噛みしめながらも地面をにらみつけて転がったままでいたらフっと目の前に影が差した。



大丈夫か、そう言って差し出されていた手にウルっとして動かないでいたら。


「…世話が焼けるな」

そんなコト言ってるのに優しい表情(カオ)をして、小さい子でも抱き起こすかの様に腰を屈めて両腕を伸ばしてくれたから


バカみたいに縋りつく、ってか纏わりつくみたいに抱きついて。


そのままギュウギュウとセンパイの、まだ新しくてキレイな制服に抱きつき顔を埋めたまま甘えてやった。





「…仕様がないヤツだな」






待っていてくれたのだろう?さっきは悪かったな。お待たせ、とちょっとギュッと片手でしてくれた。







そんなコトで、胸がキュンとなって転んで痛かったのも甘くて淡い二人の思い出になるっス!!とか思う俺って単純。







「へ、えへへへっ」





つーか、バカでもいいや。

スリスリとセンパイの胸に頭を摺り寄せて甘えまくった。
















「や〜なぎぃ、なによカワイイ後輩くん?」



「おー、ケナゲ。わざわざ中学の校舎からアンタに会いに来たってか!!愛されてるぅ〜v」







ハっ!!



と、した。俺の視界にはカンペキ柳センパイしか映ってなかったから。




隣を歩いていた二人の女先輩達が居たの…気付かなかった。



っていうか…。なんで一緒に…。いやいや!たまたまだ!たまたま…。







あ、でも押し掛けちゃやっぱ…マズかったかなぁ?



高校入って間もないのに、校門でイチャこいてた!男と!とか…在らぬ(在るんだけど)ウワサがたったりしたら…。















「そうそう、愛されすぎて困っているんだ」



俺の頭の上でそんな声がする。









「中々可愛いヤツだろう?」





俺のワケわからん心配なんか蚊帳の外で。




センパイが「羨ましいか?」


と俺の頭をポンと軽くたたくと、




あはは!と高い声が2つ笑った。



















「意外と、下手に繕うより。あぁやって思い切りよく言う方がいいんだよ」





そのうちウソかホントかが、曖昧であやふやになって。ソレでいいんだ、と柳センパイが歩く途中で言った。




世の中なんて曖昧だらけさ、だなんて呟くから。





「この関係も?」

急に不安になったのは。
どこかで俺も…『不変のない』恐さを知っていたからか。





「…不確かなコトばかりだ。所詮みんな全部。移ろいを、止めるのは困難だけれど…」









「今の俺の心は、確かだから大丈夫だよ」


見上げた左上から、穏やかさが降ってきた。



「お前は違うのか?」
「違くない!!」




一個しかない俺の心は、
センパイでいっぱい過ぎて余裕がないんだ。







「再来週に、行くんだ」

「…あぁ、そういえばそうだったな」





二泊三日。




「もう懐かしい、という部類に入るのだな」

とセンパイは一人ごちた。





「楽しんでおいで」




…のん気。






ちぇ〜。






「センパイ、センパイ」



「俺が無事に帰ってこれるように『おまじない』して?」



足を止めてセンパイの腕を掴んで甘えると




「…行くのは再来週なんだろう?」




今ソレをして、肝心な当日に…。

「はやくはやく!!」


ブツブツ言ってるから催促して目を瞑り、ねだった。





ふぅ、と大きく息を吐くセンパイが瞼の裏に浮かんだ。なんだかんだで甘いの知ってる。…。今だけ許して、ね?






「…甘ったれ」



呆れ混じりに声と息を吐き出して。


瞑っていた目の近くに、センパイが近付く気配を感じて少しニヤけてしまう。







チュっ、と。


小さな音がして、温かさが離れてく。






「え…。えー!!」



おデコから。




目を開けると、俺の前髪を上げていたセンパイの右手が離れるのが見えた。





「ちょっと、ちょっと〜!!」



なんだそのコドモ騙しみたいのは!!





「…満足して、帰る気がなくなると困るだろ?『続き』が欲しいなら…気を付けて帰ってこい」



お預け、とでも言うようにほんのり口を緩めてセンパイが歩き出す。



「け、ケチぃ!!ズルイずるい!!」



ガマンしてお預け食らうのは俺だけなんてズルイじゃないか!!

後を駆けて抗議すると






「俺の寂しさを埋めに無事に帰っておいで」


そんなコトを言いながらまた微笑んだ。




なんて…ズル、い。







「…じゃ、じゃあ。しょーがないから今日はガマンする」

おデコの、さっき『おまじない』してもらったトコを触りながらニヤっとして。



「もうおデコ洗わないっス!!」


はしゃいだら


「……ソレは、止めた方がいい」



「…なんで?」

「『おまじない』を。どうせそんなコトを言うだろうと思って掛けたから…『呪詛』」




今日中に洗い流さないとソコから腐食が始まるぞ?とか言い出した。


「ず…そ?」


「不潔はイヤだから、ちゃんと風呂に入れよ?」





精市に教わったヤツだから…。



それだけ言って。また笑って。









…ってかなんで『おまじない』頼んだのに呪うんだ?わけわかんね!!






どーせ冗談に決まってんだ!!

強がったけど、その夜。








風呂入って頭をゴシゴシ洗ってると










―『赤也赤也!コレ面白そうじゃない?』








茶を帯びた、一見なんにも書かれてない様な本のページを開いて見せて笑っていた『あの』!部長の笑顔を思い出すと…。





やっぱり背筋がゾクゾクとして俺の手は洗顔フォームをとって、おデコのトコを念入りに洗ってみた。…クソっもったいない!!































「…本気にしたのか?」




出発前に「そういえば、ちゃんと洗ったから。新しく『お守り』下さい」と、朝練に行く前のセンパイを捕まえて催促しにいったらソレだった。






「お前の将来が不安だな」





気を付けて、とセットした頭を2、3度クシャリと混ぜて。


行って来い、と先日『おまじない』してくれたトコをぺしっと叩かれて見送られた。

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