少年部屋
□ハチミツ気分
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長い指先が、ソレを器用に開いて本体を取り出していく。
「…あのっ」
「…『甘ったるいのがお似合いだ』と、思ったわけではないぞ?」
「へ?」
「…うん、中々イイ香りだと思うが」
キャップを外し、クルクルと中身を少し上げて。
悪くない、と。ちょっと穏やかに笑って寄こすから…
「あ…」
素直に受け取ってしまったんだ。
「…赤也に、不似合いな具合が」
教室の、誰かの前で塗るのを恥ずかしがって。
お前がコソコソとどこかの影で隠れて塗っていたら面白いと思ったんだ。
…なんて言う。
「…」(ちょっとムっ!やっぱSっ気があんじゃないの?)
「…ウソだよ」
頼むから膨れてくれるな、と軽く眉を下げるから…。
俺はその顔にとても、とてつもなく弱いのでイイ子に戻る。
「…そんな傷つき放題な所に、メンソールのリップを付けたんじゃ染みるだろ?」
お前が極度の『アレ』なら、構わずどんどん塗ってやるが。そう言って大好きな顔と声で笑ってみせる。
…そんなすっげぇ楽しそうな顔しないでよ。
…ふ〜ん。じゃあコドモ扱いじゃなくて…。のびが良くて、刺激性がないの選んでくれた、んだ…。
「…俺の、ため?」
自惚れそうだ。
「…う〜ん?」
どうかな?って首を傾げながら、俺の手からリップを摘まんで。
「ちょっ、と…恥ずかしい」
「そうか?どうでもいいが喋ると歯に塗るぞ?」
くすくす笑いながら、俺は大人しく塗られてみる。
「…面白い時や楽しい時。大きな口を開けて笑えないのではつまらないだろう?それに、赤也が大好きなモノを。いちいち躊躇いがちに食べるのもそうだろう?」
「…うん、まぁ」
塗り終えられて、俺はそれもそうかな。なんて、なんとなく頷く。
「…と、まぁ。それは建前で本当は……。その口で触れられると…痛いんだ」
「…え?」
耳を疑って。もう一度、柳さんが『そう』言うのを聞きたくて問い返したら。
「…もう言わない」
と、プイっと反対を向いてしまったまま。
その短い髪で隠れない耳が…。あ、赤い。
つられて俺のほっぺたも熱を増して紅潮していきそうだ。
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