閑話
□嗚呼、貴方様には敵わない
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暗闇の中ぼうっと小さな灯火が灯った。
出入口に置いてある手乗りサイズの小さな小さな行灯が数個。
特注で造らせた薄紫に近い藤色の和紙を透して何個もの灯りが淡く鈍く光る。
広大な土地に建てられた和風の豪邸の一廓。
その隅の部屋は光と言う光をことごとく嫌った彼の秘めやかなる邸。
「湊」
「これはこれはリクオ様。お久し振りにございます」
「そう畏まるな。調子はどうだ」
「此処のところは射すような日照りもなく体調も悪くはございません」
薄暗い部屋に紛れてしまいそうな漆黒の髪がその持ち主の笑いに呼応して振れる。
彼に負けず劣らずの黒と白銀の髪を併せ持ったこの屋敷の主もまた挑戦的に口角を上げた。
なら、とおもむろにぬらりひょんの姿となっているリクオが妖艶な笑みを浮かべたまま湊に問うた。
皆まで言うな、まるでそう言うかのようにリクオの言葉を遮っての一言。
「明日もまた学校とやらへ?」
「…あぁ、多分な」
「でしたら今宵はお引き取りください。リクオ様のお務めに支障を来します故」
「知るか。久しぶりの機会をそうそう逃す訳にはいかねぇよ」
「リク「それとも何か」
不自然に台詞を切り絶妙な間を創る。
無論、湊にこの間喋ることなど赦されない。
無言と凝視の圧迫。
互いの微笑に一片の崩れもなく。
「俺を抱くのがそんなに嫌か、ん?」
何処で学んできたのか。
するりと湊の首に両腕を回し、しな垂れかかる。
当然、相互の顔は近距離。
薄く開かれた唇の内側。
誘うかの如く動く舌は本当に子供かと疑いたくなるほど煽情的で。
嗚呼、貴方様には敵わない
-流石は魑魅魍魎の主と言ったところか-
(…煽ったのはリクオ様ですからね?)
(気遣いなんざいらねぇ。好きにすればいいさ)
(そんなこと)
(溜まってんだろ?)
(それは貴方様の方でしょう)