閑話

□遮光カーテン
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今日も今日とて湖に沈む。
沼ではないんだ。
誰が何と言おうと此処は沼ではなく湖なんだ。

だって湖じゃなきゃ彼は来てくれない。
彼は綺麗な湖が好きなのである。



「えー?また湊の奴居なくなったんですか」

「そうなんだよ。だからさ、連れ戻しに行ってきてくれない?」



若がお話になっている。
眉間に皺を作って、それでいて眉尻は下がっていて。
脱走常習犯の私を心配しておられるようだ。

何でそんなこと分かるかって?
それは私が耳千里だからさ。

え、訳が分からない?
私は耳千里。
目が見えない代わりに千里先の物音さえも聞き分ける耳を持った妖怪さ。



「何でいつもオレなんですか。別に他の人でも良いじゃないですか」

「頼むよー河童!君じゃないと湊の奴出てこないんだよ」



最近物騒になったから心配でさ。

お優しい人だ。
ですが若。
易々と殺されるほど弱くはありません。

そう言い返したくなる。
でも千里離れた場所に位置する此処では伝わらない。



「ふぅ…こうやってる間も湊の奴聞いてんだろーなぁ」



ご明察。
流石河童だ。
私の世話係(というか捜索係)を長らくしているだけはある。








草木を掻き分けて、ぬかるんだ土を踏み締めて、彼は迷わず此方に歩いていた。
一定のリズムを刻むような歩調は眠りを誘う。

河童が来ればこのまま。
他の者が来たら立ち去る。

私の日常。
今日も変わらず。

視界一杯の空。
藍に染められた雲。
欠けた月。


そうか、今は夜か。
何でそんなこと分かるかって?
周りの動植物が教えてくれるのさ。

長年の賜物というやつだ。
時間感覚などとうの昔に無くした。

理由は単純明快。
必要ないから。





「居た居た。湊帰るよ」





光が遮られた。








カーテン

-陽など恋しくはないさ-




(いーやーだー)

(私は他の者の困った雰囲気が好きだ)

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