脱色夢
□私の世界に色はない
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プツ、微かに息を呑む音に隠れるかのように皮膚が斬られた。
それは偶発的なものではなく人為的なもの。
引き起こした張本人である彼、湊は目を細める。
彼の視線の先は真っ赤な体液を滴らせているギンの指先。
指の持ち主が痛みに表情を曇らせたのは一瞬。
次の瞬間には真紅に染まる尖端を一心に見つめる彼にときめく。
伏せめがちな紫黒の瞳、舌に撫ぜられる桜色の上唇。
「綺麗、だな…」
「湊クンに褒められると照れるわ」
「本当のことだ」
「湊クン…、っ」
酸素に触れた血液は黒ずんで、湊の口内へと導かれた。
微弱な痛みが身体を駆け抜ける頃には、嬉々と輝いた眼はその身を潜めてしまう。
この身体が血に染まれば彼は歓ぶだろうか、なんて。
湊のスラリと伸びた指によって巻かれる包帯を眺めて思う。
「なァ、湊クン」
「却下」
「まだ何も言うてへんよ…」
「俺はギンの死体なんか見たかねぇ」
「せやかて、血を見る湊クンめっちゃカッコええんよ」
「知るか。お前は今まで通り俺の横に居ればいいんだよ」
無気力な眼光に射ぬかれて。
さっき浮かんだ思考は呆気なく四散した。
私の世界に色はない
-モノクロ調の日々はひどく単調-
(強いて言うならば)
(鮮血と言う)
(紅<アカ>が俺の唯一の色彩)
(それさえも)
(直ぐに色を失ってしまうけれど)