櫻散ル

□陸
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手探り状態の感情は理解不能。
未だ体感したことのない感情は対処不能。
相互の無意識を目の当たりにした頭は機能不全を引き起こし。
芳醇な痺れを含蓄した躯もまた機能不全を引き起こした。








「隊長ー、やっぱり今日はもう終わりにしましょうよ」

「駄目だ!どんだけ書類が溜まってると思ってんだ、てめぇは!!」

「うぅう…、明宮隊長もなんとか言ってくださいよぅ」

「と言われてもな。どうしようか、日番谷隊長」




緩く笑い頬杖を付いたまま湊が日番谷の方へ振り向いた。
テーブルの反対側では乱菊のウザったい程の笑顔。
彼女の方は無視するとして、問題は彼である。


優しさを秘め、細められた瞳。
彼自身の頬に触れる細く長い指。
笑顔のために弧を描いた唇。


どれを取っても今の日番谷には思考を麻痺させる武器にしか過ぎず。
我ながら女々しいと思いつつ、心臓が早鐘を打つ。




「、…ッ好きにしろ。俺は仕事をする」

「えぇー…まだ、やるんですかぁ?」

「好きにしろって言ってんだ。…帰っても良い」




書類に筆を進める手は休めない。
流石に隊長が残業しているのに帰るのは気が引けたのだろう。
渋々ではあるものの自らの定位置についた。
なんだかんだで仲の良い彼らに先程零した笑みが引かない。




「失礼したな。無理は禁物だぞ」

「すいませんねー、うちの隊長仕事熱心で」

「お前がしなさ過ぎるだけだ!」




退出する間際に軽くお辞儀をして廊下へ静かに出て行った。
空は青色を疾うに越し橙から桃、そして藤色へと段階的変化を遂げている。
無造作に天を仰いで踵を返した。








「隊長の意地っ張り」

「…五月蝿い」

「せーっかく愛しの明宮隊長が来てくれたのに」

「っ、…なんだその“愛し”ってのは」

「顔が真っ赤になって可愛かったですよー」

「…やる気がないなら帰れ!集中が途切れる」




すいませーん、気怠い返事に静まったはずの怒りが再度膨れ上がる。
けれど意外にもその後揶揄されることは無く。
書類整理はつつがなく進んだ。










(知らない知らない知らない)
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