櫻散ル

□参
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「湊様、本当に隊舎巡りなどなさるおつもりですか?」

「あぁ。今回の奴らは中々のようだからな」




霊圧を見れば分かる、そう咽の奥で湊は小さく笑った。
しっかりとした足取りで道を歩けば自然と人の波が彼を避けていく。
その中には湊の微笑に頬を赤らめる者も少なくはない。
以前に彼が言っていた言葉が頭によぎって消えた。




この現象はあまり好ましくない。




湊は高貴な存在なのだから当然のことだと、その時言ったのを覚えている。
100年も200年も昔なのにまるで昨日のことのように思えて仕方ない。


ふと湊がゆっくりと振り返った。
彼が立ち止まったのに倣い寐凉も立ち止まる。




「寐凉、蓮を頼む。あいつのことだからきっと拗ねているだろう」

「はい」

「…やっぱりあの小屋に戻るのか?」

「もちろんです。あそこは私達の」






――――…生きる原点ですから。






彼の微笑みはどこまでも純粋で眩しい。
湊の目が微かに細められた。




「別に俺の邸に住んで構わないのだぞ?」

「勿体無きお言葉。ですが、湊様の御邸に住まわせていただくなど恐れ多い限りです」

「そうか……。来たくなったら何時でも上がっていて良いからな」

「ありがとうございます」




恭しくその(こうべ)を垂れた。
従順と呼ぶのが相応しい彼の行動に苦笑が漏れる。
下げたままの頭を静かに柔らかく撫でれば、小さく震える金髪。






それは遥か昔、まだ自分達が子供の頃にしてもらったものと何ら変わりなくて。
それは我らが仕えるべき主がまた舞い戻ってきたという明白な事実で。






涙腺が緩みそうになるのを堪えるのに必死だった。
何回彼の転生を体験しても、慣れない。




「…湊、様」

「お前らだから零番隊を安心して預けられるのだ。感謝している」

「、滅相もございません」

「じゃあ、隊舎巡り行って来る。頼んだぞ、寐凉」

「いってらっしゃいませ、湊様」




いつになっても包み込んでくれるこの温かさは変わらず。
彼の気配が感じ取れなくなってもその場を離れられなかった。












(温かさ、それを教えたのは貴方)
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