脱色夢
□月喰
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「弱いとは哀しいものだ」
ザシュ。
在り来りな貫通音を発して、前に踊り出れば鼻腔の奥深くを刺激する生の異臭。
「ッ、湊?!」
「そう思わないか。冬獅郎」
同意なんて初めから求めちゃあいない。
何も考えずに降り立ったからだろうに、肺を貫き溢れるは酸素に触れる前の鮮血。
傷口から吐血から遥か数十m下の地面へ重力に従って滴下している。
「破道の九十 黒棺」
同じ黒ずんだ赤なのにこうも月と違うのは何故だろう。
あっちは壮麗でこっちは醜悪。
あっちは空高くに君臨してこっちは地中の下層に蔓延る。
「おい!湊ッ!!」
「これで私は塵になれる」
「馬鹿言うんじゃねぇ!今、救援を」
「良いんだ。ありがとう」
飽き飽きしていた。
現世も尸魂界も。
彼と居るのは好ましかったがそれでもこの渇きを潤すに至らなかった。
一つ、悔いがあるとすれば自身の勝手な考えで君を泣かせてしまったこと。
だから今ここで君に謝ろう。
先に逝く無礼を許しておくれ。
月蝕
-喰らふは闇-
(望んだ世界へいざ旅立たん)