一縷の願い

□ と
1ページ/1ページ


あの人は自由人だ。
約束は十日間のはずだったのに一週間でもう終わりだと言う。
しかも最後はバスケ部。

ただ違うのはあの人が最後まで居るということ。



「やっぱバスケしてるときが一番活き活きしてんな」

「とーぜん!バスケ楽しいっスもん」

「楽しいもんがあるってのは良いことだ」



爺臭いっスよ、そう言えば返ってくる軽口。
途中からセンパイ達も混じってきて、楽しそうな彼の顔付き。

キラリと左耳のピアスが光る。



「あれ、湊ピアスしてたっけ」

「ん?ああ、黄瀬君に開けてもらった」



カッコいいだろ。

自慢気にセンパイ達に左耳を見せびらかす。
嬉しいような恥ずかしいような。
とりあえずセンパイ達の肩パンやら頭叩きやらが痛い。

ヤベ、自然現象だけど涙出てきた。



「こらこら、俺が頼んだんだから後輩を苛めない!」

「湊が言うなら」

「てか苛めてねーし」



相変わらずこの人の信者だなセンパイ達。
更に二言三言話してこの人の言葉に部活を再開した。
部長すらも統率してるって凄いけど、なんだか今なら分かる気がする。



「黄瀬君」

「何スか、っ」

「頑張って」



この顔に応援されたら。



「(やっべ、) 誰に言ってるんスか」

「んー、勿論黄瀬君」

「(、嬉しい) あんたの代わりに、目一杯やってくるっス!」

「おう、頼むよ」



とっぷりと日も暮れた時間帯に厳しい部活は終了を迎える。
いつものように弟達を迎えに行って玄関まで送って。





「また、今度な!」





そう言ったあの人は笑っていた。








(そして次の日からあの人を見かけなくなった)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ