一縷の願い

□ と
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「凄いな、黄瀬君て」

「あー?…アイツは真似っ子の天才だからな」

「天才か…うん」

「まあ、バスケに関しちゃもっと上がいっけど」



黄瀬君のことを嬉しそうでも悔しそうでもなく。
ただ楽しそうに幸男は話してくれてた。
本人に言ったら否定されるから言わないけど。



「…全部出来ないのもつまらないけどさ」

「ああ」

「全部出来るのもつまらないよな」



きっと。

最後の言葉が聞こえたかは分からない。
凡人に天才の気持ちは想像し得ないし天才に凡人の気持ちは理解し得ないだろう。
だから皆羨ましがるんだ。



「見てみたいな…」

「何がだよ」

「黄瀬君がバスケ以外のスポーツをしてるとこ」



俺もその一人。
天才だからで全てを済ますのも、黄瀬君だからで全て片付けるのも。
彼自身に対してとても失礼なことと知りながら羨ましいと言う。



「…やらせてみるか?」

「きっとカッコいいんだろうな…え?」

「だーかーら!やらせてみるかっつってんだよ」

「良いって!そんな迷惑かけられないし」



ぶんぶんと目の前で右手を振る。
何てことを言うのこの子は!
ぶすっとした面構えで目尻はつり上がって。
そんなんだから勘違いされるんだっつの。



「でも、黄瀬君バスケやってるとき本当に楽しそう」

「生意気に変わりはねぇ」

「きっと幸男達が居るからだな」

「は!?」

「天才でも同等に扱ってくれる人が必要だってこと」



同等じゃねーし。

反抗的な声音に「はいはい」とそれ以上深くは言わないでおく。
一番傷付くのは腫れ物みたいに接せられること。








(この会話の一週間後、実際に黄瀬君に頼んだ)

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