あべみはべ

□あべねこ。
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阿部は、モノノケ・妖怪の類いだろう、人の子のような顔・形に、しかし猫の耳と尻尾、ひげを蓄え、手足は猫そのもの。
元々、三橋は庭先で弱って倒れていた黒猫を保護したのだが、動物病院から退院してきたその日の夜中、今のような姿になった。
「えーと…、三橋。オレは、阿部。お前に助けてもらった猫が、オレだ。」
小さな体に似合わず、大人びた口調、態度。驚かさないように、現在よりもいくらか優しい音で自己紹介をしていたものだ。


「阿部、君っ、ご飯、早く食べようっ」
「待ってたのはオレだっつの…」
「ごめん、ねっ」
阿部は三橋の腕から離れて、小さく縮こまる。頭の猫耳を両手で押さえ、きゅっと目を閉じたその姿がすごくすごく可愛いと三橋は思うのだけれど、阿部はいつも不機嫌顔を隠そうともせず、眉根にしわを寄せている。
目を半分開き、三橋を見て、舌打ちした。
「見んなっ」
「う、でも、阿部く…」
「でもじゃねぇよっ!んなへらへらした顔で見んな!!」
三橋の視線から逃れるように、阿部は背中を向けて、先ほどと同じ格好、両耳を押さえて小さく「変化」と一言。
すると、阿部の体はとたんに小さな黒猫へと変わった。先ほどまで着ていた服の中から黒猫の阿部が顔を出す。
ニャー。
と。
黒猫の時には、阿部は人語をしゃべることができなくなるのだそうだ。
だって猫の声帯では無理だろ。と人の姿の時に阿部は言った。
「今日は、鰹節入りの、缶詰だよッ」
三橋の言葉に、阿部は満足そうに尻尾を高く伸ばした。
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