おはなし
□待って、られない。かも。
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「嫌な感じはなくて、本当に純粋に言ってるように聞こえたんだよ。」
水谷は栄口が黙っていることを受け入れ、しゃべり続ける。
「でも、オレ、嫌だった。」
トンボをぎゅっと握りしめて、水谷が体ごと大きく俯く。
そのままの体勢、グラウンドに話しかけるように続ける。
「だって、いろいろ考えちゃうじゃん。
本当にあの女子たちが純粋に歌を聴かせたかったのかは、あの人たちにしかわっかんねーじゃん。
…でも、さぁっ。…でもあんまり疑いたくないんだ、なんか恐いし…。
それにさ、そこでオレがなんか言っちゃったら、阿部に悪いでしょっ」
栄口は黙ったまま頷く。
女子たちが言うには、ただ友達になろうと、そういうこと。
だけれど水谷には、作為的に思えてしまう。
しかしそれは人を信用しないということで、そういう風に考えてしまう自分を恐く思うのだ。
阿部は、どう思っただろう。
「…阿部は、真剣なのに。」
真剣。
水谷が体を上げて、栄口と目を交わす。
その瞳は少しの怒りと少しの悲しみで潤んでいるようだった。
「でね、オレは、阿部に話しかけらんなかったの。さ。」
栄口は今度こそ少し笑ってしまった。可愛い奴だ。
「何で笑うんだよー…。オレ恥ずかしいこと言った?」
「あ、自覚あるんだ。」
あはは、と笑い、栄口は水谷の背中を叩く。
それに対して水谷は口を尖らせた。
「さかえぐちぃー。」
「ごめん。水谷は考えすぎかもよ。」
もちろん、人の気持ちを考えることは、人間に必要なことだ。
けれど、それによって水谷はぐるぐる考えを巡らせ、悩んでしまったんだと思う。