おはなし

□大切。
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沈黙。

栄口はオレが話をしている間、口を挟むことなくただただ頷いて真剣に聞いてくれていた。

1分か2分か、長く続いた沈黙を破ったのは、オレじゃなかった。
まぁ珍しい。

「水谷は、すげぇ頑張ってたよ。」

栄口がブランコを囲う柵に寄り掛かりながら、外灯を頭上に浴びつつ静かに言った。
目は合わせてくれない。
オレは栄口を見てるのに。

「彼女のために、すげぇ頑張ってた。オレから見てれば、危なっかしぃなッて思うくらい」
頑張りすぎて、いつかパンクするんじゃないかって心配してた、とそう言った。

「そうかなー…」
「そうだよ。」

心配してたのか。
心配、と復唱すると、ひどく心がふわふわ揺れ始めた。
そして、きゅう、っとセツナクなる。
心臓を胸と背中から押されて苦しい感じ。

「うーん…」
「水谷はね、」

なんだか心と同じようにふわふわした返事しかしてないオレなのに、栄口は続けてしゃべってくる。
まだ、顔を反らしたまま。

「全部全部やろうとしてた。彼女は雰囲気とか大人っぽかッたから、水谷、一生懸命追い付こうとしてたのは分かるんだけど…オレからしたら、痛々しくて見てらんなかったよ。ごめん、言い方悪いな、…あのさ、苦しかッた…」
「…」

言葉が出ない。喉が締め付けられたみたいに苦しかった。
なんで栄口が苦しいの?

「水谷がね、どんな付き合いをしてたかは知らないんだけどさ、その子のために一生懸命だったなぁって思う。別れちゃったのは残念だけど、成長した水谷のことを好きだッて思ってくれる子は、必ずいるから。」

もういるかもしれないよ。

栄口はそう最後に付け加えた。
そんでオレを見て、いつもの笑顔を見せてくれた。
その笑顔は、最初に見せた苦しそうな笑顔じゃなくて、キレイな。
暗闇の中でもはっきり分かる。
ふわり、と笑ってる。

栄口、優しいな。

ねぇ栄口、
ありがとー…

「んー…?」

涙で滲んだ視界に、栄口の近付いてくる足が見える。
やっと栄口がこっちを見てくれているだろうというのに、オレは今、顔を上げることが出来なかったんだ。
涙が零れてしまうから。

「…よしよし。」
「あはは、栄口優しー」

頭を撫でてくれた手がすごく暖かかった。
栄口ってすごいね。かっこいい。

結局一筋だか二筋だか涙を流して、でも栄口はそれに気付かないふりをしてくれてンのか、オレの頭に手を置いたままなんだけど体は公園の砂場あたりに向けていた。
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