あべみはべ

□あべねこ
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三橋くんは、数日前から小さなクロネコを飼い始めました。
そのクロネコは、名前を『阿部』と言います。

「三橋ー。明日部活早く終わンだろ?」

その阿部という猫は、人の言葉を使いました。
名前も三橋くんが付けたのではなく、自分で名乗ったのです。

「う、ん!」
「じゃあ、…遊び、行こうぜ」
「あ、う、うんっ!」

阿部は今、小さな男の子の姿をしています。
ただ、人と違うのは猫のような耳とヒゲと尻尾。それらが、彼を猫であると主張していました。
しかし普段は子どものクロネコです。
彼は三橋くんの前だけで人の姿をとり、一緒に出かけたり、キャッチボールなど、遊びに行ったりするのでした。
モノノケ・妖怪、その類いの阿部は、三橋くんのお家、というより三橋くんのお部屋に居座っていました。

「明日、昼には、帰ってくる よっ」

三橋くんは阿部に合わせてしゃがみます。
阿部は両手を胸の位置に組み合わせて偉そうに、

「早く帰れよ。飯食わずに待っててやっから」

と、どちらが飼い主かわからないような口調で言います。
最も、阿部は飼われているという意識はないようで(それはまぁ、普通の猫ではないのだから頷ける話ではありますが)、寧ろ三橋くんを守っているような気でいっぱいです。

「だ大丈夫…!早く、帰るっ」
「あ、おま…、肘擦りむいてンじゃねぇかっ!!」
「ひ…ッ!」

しゃがんで腕を膝小僧に乗せていた三橋くん。正面に立つ背の低い阿部には、すぐに目につきました。
三橋くんが、部活中に転んでつけた、擦り傷です。

「バ…ッ、ふざけんな!ちゃんと消毒したんだろーな!?」
「う、う、んっ!マネジが…っ、やってくれ た、よっ!」
「ならいいけど、お前マジ気をつけろよ…」

阿部は深く溜息をつきました。
三橋くんは心配してくれた阿部に「ごめんなさい」と謝ります。

「別に怒ってんじゃねーよ」

阿部は三橋くんの頭を乱暴にひとかきして、ベッドにころんと寝転びました。
阿部は猫のモノノケなので、猫らしく小さく丸まります。

「あ、阿部、くん…、寝る、の?」
「…」

阿部は尻尾をひょい。と上下させて、返事はそれだけでした。

「お、オレ、も…!」
「!。ッお前はちゃんと風呂入ってこい!」
「うあ!はいッ!」

三橋くんは、重たい瞼をカッ。と見開き、急いでお風呂に向かいました。

お風呂でうたた寝をしてしまい、クロネコの姿でお風呂の様子を見にきた阿部に、猫パンチを食らわされるのは、また別の話。
ちゃんちゃん。
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