あべみはべ

□雨は、すぐには止まないよね
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昼を過ぎた頃から降り始めた雨は、午後6時を回った現在も、しとしと。と降り続けていました。

「くそ、傘ねぇのに…」

阿部は小さく悪態をつきます。
そんな自然現象に対し怒りを表す阿部を、席が近くの水谷は笑いました。

「阿部は阿呆だなー。」
「黙れクソレフト」
「ひどッ!!」

今度は自分に対して悪態をつかれたのだけれど、水谷はケラケラ。と笑いました。
阿部は荷物をまとめて、溜息をつきます。

「…ま、別に家帰るだけだし、いいけどな」
「風邪引かないでねー?三橋が泣くよー?」
「濡れて帰るくらいで風邪ひくか」
「まぁ阿部はそんなか弱さなさそだけどさー」
「あーうるせぇ。早く帰れクソレフト」
「もー。阿部はまだそれを言う。しつこい男は嫌われちゃうよー?あははッじゃあね!」
「うるせー…」

先に教室を出て行った水谷に、阿部は独り言のようにつぶやきました。




校舎正面玄関にて。
阿部が傘立てにカバンを乗せて、硝子戸に寄りかかりながら外を見ていると、栄口がやってきました。

「阿部ー。一緒に帰らないのー?」

靴を履きながら、そう栄口が声をかけます。
しかし阿部は小さく手を振りました。

「あー、オレもう少し雨の様子見て帰るわ」
「あ、傘ないんだ?じゃ悪いけど、オレ帰るね、ちょっと用事あってさ」
「気をつけて帰れよー」
「うん、また明日ー」
「おー。」

阿部と栄口は、お互いに手を上げて挨拶を交わしました。
そして、栄口は阿部と反対側の硝子戸に寄りかかる彼にも、にっこり。と手を振ります。

「…、三橋も、バイバイ!」

三橋は体をびくり。と弾ませて、栄口に慌ててうなずきました。

「う、お、あ明日、ね!」
「あははッ、バイバーイ」

遠ざかる栄口を見送り、そして少しの間、阿部と三橋はしとしと。と雨の降るグラウンドを黙って見つめていました。

とても、静かでした。

そんな沈黙に耐えられなくなったのは阿部。
一向に帰ろうとしない三橋に対して、阿部はなるべく静かに問います。
この静けさを壊さないように。

「…。何してんの」
「ひ…ッ!」
「残っといてその態度は何だよ…」

壊してしまったか。と阿部は思いました。
三橋から視線を外して、小さく長く、溜息をつきます。

「お、おおオレも…ッ」
「…オレも、って何。傘は持ってンだろ?」
「う、ち、違くて…、オレも、…待つ」
「待つ?」

再び三橋へと視線を向けた阿部。
三橋は、しっかりとした目を合わせ、阿部に答えました。



「あ雨、と…、阿部、くんッ」



しとしと。と降り続く雨。
また暫く、静かに時間は流れゆきました。
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