単発。

□しろ
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空が高い。
青く、雲一つない、とまではいかないけれど、快晴。
日和だ。

「いっそ雨でも降ってれば、阿部隆也のドラマとしては盛り上がったんじゃねぇの」
「…雨なんて降ったらそれこそ泣いちまう」
「二次会終わったら、付き合ってやるよ」
「ジョーダンだよ。」
「じゃあ、アイツの前でそんな顔してたら殺すからな」

視線をまっすぐ、正面へ。人だかりの中心、キレーな白を着込んだ…三橋。
眩しい。

「…おまえ、ちゃんと幸せんなれよ」
「…は?」
「阿部が幸せんなって、ちゃんと笑ってねーと、三橋が可哀相だろ」
「…相変わらずだな」
「俺がおまえのために祈ってやるこた、野球以外で今回だけだぞ。しかも、…三橋の、結婚式で」

小さく、頷いた。
その頷きは泉にではなくて、ただ、結婚式なんだ。ってその紛れも無い現実に対してだ。

「ま、一番に願うのは三橋の幸せだけどな。」
「…」
「今日だけは、二番目に阿部の幸せ願ってやるよ。ありがたく思え。」

その言い方に、優しさのかけらでも見出だせれば良いものの、どう考えても刺々しさしかないのが分かる。

「…おまえ、俺のこと嫌いだろ」
「あー。嫌いだね。性格も、考え方も、その顔も。」
「だろーな。」
「でもまあ、俺の前から消えろとは思わねぇし。幸せ願ってやんのも、マジ。
…三橋に対してる阿部が嫌いであって、阿部は嫌いじゃねぇよ。」
「そーか。俺はおまえのこと嫌いだけどな」
「分かってんよ。」

緑の草木。色とりどりの花。真っ白なタキシード。黄色のドレス。それを取り囲む、笑顔の人ら。
ため息混じりで笑った。

「ここでさ、」
「は?」
「俺が、三橋を連れ去ったらどうする?」
「させねぇよ。そのために俺が今、ここにいる。」
「…。かっこいーこった」
「ま、俺が考える阿部はんなこたしねぇけどな」

ケータイ灰皿を出して泉は、くわえていた煙草の灰をとんとん。と落とす。

「ひとくち。」
「あ?」
「サンキュー。」

かじり癖のある泉の煙草をひとくちだけもらう。
久しぶりにいれたニコチンが染みる。咳込みはしないけど、目頭が熱くなった。
吐き出した濁った白。
全部、体から抜ければいいな、と思った。


おわり
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