単発。
□家族。
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三橋くんが部室に入ると、一番に阿部君と目が合いました。
「はよ。」
短く、決して朝のさわやかな挨拶とは言えないような口ぶりの阿部君。
しかし、三橋くんにとっては自分に向けられた挨拶がとても嬉しく思いました。
「お、おはよ、うっ!」
少し大きめの三橋くんの声に、阿部君は鼻を鳴らしてから、顎で促します。
「お前着替えるの遅ぇンだから、早くしろよ」
「う、あ、は、はいッ!」
三橋くんは少し青ざめて、急いで着替えを始めます。
「イヤ、お前の場合、急ぐと余計遅くなる…、つぅか、靴脱がねーと引っかかるっつーの!バッカ、てめ、今脱いでも遅ぇだろーが、もっかいやりなおせっ」
要領の悪い三橋くんに、阿部君はイライラ。
三橋くんはビクリ。と肩を強張らせて動作が止まります。
そんな時。
「阿部、母ちゃんみてー!」
「はあっ!?」
田島君の突然の声に、阿部くんは即座に声を上げます。
「三橋の母ちゃん。あ、父ちゃんは花井なっ」
そう言われた花井君は、顔をしかめるだけで何も言いません。
田島君はなおも続けます。
「そんで、オレは三橋の兄ちゃん。オレ弟ほしーもんっ」
兄・弟。その言葉に、三橋くんはうれしそうに目を開きました。
「お、オレもっ。兄弟、ほし、いっ」
「なっ!兄ちゃんほしーだろ?オレなっ、オレ!!」
そんな幼いやりとりを周りの全員がため息まじりに聞いていて、そんな中泉君は着替え終わり、部室を出ていく際に、一言つぶやきました。
「阿部は鬼嫁」
「ギャハハっ!オニヨメーっ!!」
泉君は田島君と逃げるようにさっさと部室から出て行きました。
残された三橋くんは、阿部君にビクビクしながら、着替えました。
その最中にも、
「チラチラ様子窺う前に、てめぇは早く着替えてろっ!!!」
と怒鳴られたことは言うまでもありませんでした。
ちゃんちゃん。