おはなし

□待って、られない。かも。
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部活の始まる前。
部室で阿部が座って音楽を聞いていた。
珍しいこともあるもんだ、と栄口は思う。

ロッカーに寄り掛かり、瞳は緩く閉じて、聴き入っているみたいだ。
眠ってはいない。
阿部を見ている栄口に気付いた水谷が、ひらひらと手を振ってみせた。
その表情は笑っていたけれど、どこか悲しそうだった。

着替え終わった栄口が部室を出て水谷を待つと、彼はすぐに追い付いて来てグラウンド整備を隣で手伝いはじめ、そして、あのね、と話始める。

「クラスの女子が、阿部に聴いてほしい、って渡したヤツでさ。今日阿部んとこに一泊すンの、アレ。」

阿部はクラスで女子とも上手くやれてンのか、と何か笑ってしまいそうになり、しかしすぐにそれを引っ込めた。
水谷は、真剣にしゃべっていて、そのiPodの中に入っている曲を、一曲挙げた。
知っている曲だッた。

『自分の想いは、受け入れてもらえないもので、それは伝えるまでもなく明確であることは分かっている。だから自分は、このままでいいのだ。』

そんな詩だった。
ここで何か発言してもいいと思ったけれど、栄口は水谷の次の言葉を待つ。

「ん…、セツナイ歌、なんだよね。オレさぁ、その女子たちに、何で?って聞いたんだよ。そしたら、」

−−

えー、なんでって何で?

なんでもないよねぇ。

ただ阿部君と、つぅかクラスメートだし?なんか関わり持つために、今回は音楽貸してみたのー。

ウチらが入れた曲ン中でさ、気に入ったのあれば嬉しいじゃん!

ねーッ。そしたら阿部君の好みとかさぁ。

アンタ実は阿部君大好きだよな。

え、好きだけど?

うわ!普通に言った!おもしろくな!

−−
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