おはなし

□照れ隠し。
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ぶるり。
小さく震えた。

陽が落ちてからは特に、季節はしっかり秋から冬へと歩き続けているのだと実感する。
昼間は暖かくて、今日は屋上で昼食をいただいたくらいなのに。

「寒い?」

少し震えただけなのにも関わらず、隣を歩く男は、顔を覗き込んで聞いてきた。
気にして声をかけるだけでなく、そういう言葉だけではない仕種を伴わせるところが、人を引き付けることのできる彼の良い持ち味だと思う。
我らがチームの正捕手から言わせれば、女々しい・うぜぇの対象みたいだけれど。

「寒いというより、冷たいかな」

身体の寒さはそれほどでもないのだ。
心臓のあたりが暖かい。
中心は熱いくらいに。

しかし手は感覚が鈍るくらいに冷えていた。
右手を胸の位置に上げ、緩く広げて、冷たい。と呟く。

その手を、彼は両手を使って包み込んできた。

「オレの手、暖かいっしょ?」

そう言った彼の表情は、悪戯が見つかった子供のような笑顔で。
出かかった感謝の言葉を引っ込め、

「心が冷たいんじゃないの?」

と笑ってやった。



栄口と水谷すきです。
カップリングでも好きですけど、二人単体で人間として好きな人たちです。
ともだちになりたい。

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