「・・・良い風」



大きな窓ガラスの向こうには、まるで別世界のような舞踏会

バルコニーから見るその景色はどこか現実味がなかった。


「やっぱり、似合わないわね」


うっすらガラスに反射した自分との温度差は見るに堪えないくらい


もう高くなる月を見上げながら、思い出したのはいつかの夜


そうだ、あの時も無理やり連れてこられた舞踏会で、良い風が吹くバルコニーで


「・・・覚えてるものね」


幼い私は慣れ合いに飽きて一人月を見上げていた

不意に月明かりが無くなったと思えば、バルコニーの手すりに黒い誰かが座っていた。

逆光で顔すら見えなかったのに恐怖心なんて欠片もなくて

だれ?と聞こうと口を開くと、低い声であの人は・・・


「何て、言ったかしら」


その時、月に影が被ったように視界が暗くなった



『貴女はきっと綺麗に笑うんでしょう』


『私が出来ない事を貴女は息をするのと同じようになさって・・・』


『またどこかで出逢える時、私は貴女を』






「迎えに来ますと、そう申し上げたはずですよ、御嬢様。」



心のどこかで再会を望んでいたのは、貴女か私か

月が見えない月夜に魅入られんことを。


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