Novel-Guilty 1
□倖福論
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私は貴方より倖せだ。
貴方は、私より不倖だ。
貴方は──不倖だ。
倖せに、なろう。
「ソル、倖せとは何なのでしょうか?」
「あ?」
真っ白い雪が空から堕ちてきて、見渡す景色を銀世界に染める夕方、ふとカイが口を開いた。いきなりの概念的過ぎる質問に俺は間の抜けた声を洩らす。カイに視線を向けると奴はこれと言った様子もなく、頁の開いた小説に眼を通していた。
「だから、倖せとは何の事なのでしょうかね?と聞いたのですよ」
疑問を疑問のトーンで返す俺を気にする素振りも見せず、再度同じ様な問いを投げ返すカイ。俺は答えに詰まる。
倖せ。
これと言った決定的な形も形容詞も想像もない感覚。言葉で表現するのは簡単に思えて難解。説明するべきでない単語だ。それを説明しろと言うのか、この子供。
溜め息を吐く。
「嬉しい時に感じる感覚…じゃねぇのか?」
「『嬉しい時に感じる感覚』。ふうん。まぁ、簡単に言えばそうなのかもしれませんね」
「ヤケに突っかかってきてないか?お前」
「いいええ。うふふ」