Novel-Guilty 1

□貴方が居ない。
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きっと彼は、この寂寥感など知る由もないのだろう。










まるで世界が終わったかの様な静けさが響く部屋に、本の頁を捲る音が不似合いに滲む。だが、カチコチと時を刻む針の音がそれ以上に浮いていたので、然程(さほど)気にはならない。

部屋は薄暗い。陽の沈み始めた時間になっても電気を点つけない自分の怠慢の所為でもあるのだが、私的にこの暗さは鬱陶(うっとう)しく感じられなかった。

文章の羅列を遅い速さで辿る眼が、小さく瞼に隠れる。何の光にも照らされていない「蒼」が、徐々に眦(まなじり)に押し潰されていく。眼を閉じたのだ。聴覚を研ぎ澄ますのに視覚は邪魔だからだ。

そうして、聞こえてくるかもしれない扉の開く音や、低く嗄(か)れる声に神経を集中させる。





聞こえてくる訳が無いのだが。





それでも、と耳を澄ましてしまう自分は愚かだろうか。





じっと身を潜めて、読んでいた本も閉じて、必死に何かを捕えようとしている躰に夜の浅い闇は冷たい。何時もみたく何も答えてくれない。
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