書庫5

□土方家教育事件簿
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夕方の空気が静に室内を浸していく。
向かい合って座ったその周囲には、陰影と共に不気味なまでの静寂が連なっては転がり落ちていた。
いつもは賑やかな居間は呼吸の音ひとつ聞こえないほどしんと静まり返っている。
出したばかりの炬燵を挟んで向かい合った二人は睨みあっていた。
片や土方の腕の中には、一歳にもならぬ末娘と、背後に心配そうな顔でオロオロとしている長子。
片や高杉の背後には、はらはらと行方を見守る旦那たち。
他の子供たちはどちらでもなく、隣の部屋から細く襖を開いて、珍しい険悪な組み合わせを恐る恐ると言った態で眺めている。

どちらもしばらく全く何も発しない中、肺腑を空にしそうな溜息が零れ落ちて、炬燵の上にあった一枚の藁半紙をゆらりと揺らした。

「…そうまで言うなら、解った」

向けられる声は、刺々しく、硬い。

「しばらく帰らないから、そのつもりでいろ」

そう冷たく宣告した土方はすっくと立ち上がると、後ろも振り返らずにさっさと出て行ってしまったのである。
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