書庫5

□あなたはわたしをすきすぎる2
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それは、珍しく高杉の発作が表れていなかった、穏やかな日の事であった。
珍しく武市は攘夷の話が出来て満足していたし、また子は悪役な顔をして、珍しく(土方以外のことで)饒舌な高杉を眺めてうっとりしていた。
高杉は以前はいつもこうであった。
土方と再会する前は、その整っていながらも傲然としたおもてで他者を容赦なく見下ろし、もしくは他者など眼中にさえ入れずにどこか、誰も到達できない遠い遠い先を見ているような男だった。時折見せる凶悪な笑みは破壊衝動に満ちていて、この男ならこの閉塞しきった世界を、腐りきった世の中をどうにかしてくれると。そう信じて、派の大半の者はこの男についてきたに違いない。
また子は似蔵や万斉とは違い女だったから、それ以外の感情を、似蔵が高杉に抱く崇拝より少し先に踏み込んだ感情を抱いている。高杉にはこれ以上無く全身全霊で(むしろ手加減したほうがいいほど危ない具合に)愛している土方という男がいるわけなので、今のところそれを主張することは無いのだが。
また子も、また武市も、土方に会ったことは無い。
遭うつもりもないし、高杉が警戒して会わせないのである。似蔵は以前に接触させられていたが、ひどく疲れた顔で戻ってきていたから、ろくな男ではないのだろう。高杉の寵をいいことに好き勝手に振舞っているに違いない――――――とまた子は硬く信じているのである。
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