書庫5

□天然不思議青年
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なんだか、近いんじゃないだろうか。

さりげなく銀時は腰を浮かせてあとずさったが、それと同じくらい土方が前進したので意味はなかった。
ぱちり。
またばたきの音が聞こえそうだ。それだけ距離が近いのである。
銀時は咀嚼していたウェーハースが喉の奥にへばりついているのをやっと思い出して、慌てて飲み込む。
気管を塞いでしまうところだった。

それにしてもいい男だ。
異常事態にも慣れだすと、銀時の脳は関係の無いことを考え始めて安定をはかろうとする。
在るべきパーツが在るべき場所に収まっているというような絵に描いたような美男である。
目付きは多少どころではなく悪いし、健康美ではないし、筋骨の逞しくはなさそうだがセックスアピールとしては十分だ。いや、いまどきの女ならやわい男が好みだからこの方がもてるだろう。何故この男はあんな仕事に就いているのだろうか。芸能人でもやった方が絶対もうかるというのに。

まぁ銀さんには負けるけどね。俺の魅力はちょっとばかり癖があって、ツウ向きなだけで。

一人心中自己完結して、おもむろに銀時は左腕を伸ばすとぐ、と近くまで迫っていた土方の顔を押しのけた。
手のひらであの長いまつげが瞬きをしたのか、さらさらちくちくとしたものが当たって一寸くすぐったかった。

直ぐに払いのければ良いというのに、数瞬またたいてから顔のほぼ全部が銀時の手のひらに収まっている知った土方は、やっと自分の顔を覆っている銀時の手のひらを押しやった。少し憮然としているようであったが、それ以外はさして普段と変わらない。この男はいつも無表情だ。

「おめー、何なのよ一体。銀さんがあんまり格好いいから見とれてた?」

軽くジャブを入れてはみたけれど、ことん、と土方は首を軽く傾げただけだった。

ていうか、なに、ことんって。

男のする仕草じゃねぇだろ、という言葉は飲み込む。一瞬気が付かなかったのは秘密である。あまりにも様になっていたものだから、
まじまじと土方は銀時に、いっそ熱烈なほどの視線を向けてくる。隠すことも無く観察しているとむき出しの視線に居心地悪く銀時は身じろいだ。
普段なら何見てんだよ、で終わらせるところが、この男は容姿の分だけ得をしているのか、いや今までの食事代のこともあるからだろう。そう言い切ってしまえないのがタチが悪い。第一銀時はまだ今日の分の会計を済ませてもらっていないのである。
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