書庫5

□天然不思議青年
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どうしよう。
眼前、目と鼻の先ほんの数cmまで近付いた人間の顔に、銀時そんな言葉を脳内で何度も繰り返した。
知った人間である。
いやに綺麗な顔をした男だ。
その男に、真昼間にファミリーレストランの窓際の席、何故かかれこれ数分に渡って睨みつけられているのであった。


+++天然不思議青年+++


そもそも銀時のほうからファミレスに土方を誘い込んだのである。
何のつもりもない。赤貧(とはいえないかもしれない)で台所が火の車状態の銀時にとって、彼は貴重な食事の元であった。一度子供たちも一緒に世話になった覚えがある。あんまり神楽が食べ過ぎたから、さすがに二度とはしていないが、元々は土方の方に非があったのだ。
もう随分前のことに思えるが、土方は近藤と銀時が初めて出会った直後、彼が昏倒させられたことへの報復に銀時に斬りかかったのである。
結局その場はなんとか治まったものの銀時は左肩に傷を負った。
そのことに対する負い目があるのだろう。正式な謝罪はないけれど、一方的にファミレスに連れ込まれてからも、土方が断ったことはなかった。しかめっつらを作ったり文句の一つは言ったけれど。

銀時は土方のことを財布以上には思っていなかった。
おそらく傷の賠償からしてみたらとっくに額は超えているだろう。けれど本気で断られたのなら、銀時は引くつもりだったのだ。どうも彼は何かを考えているようで、大体は銀時が一方的に何かを話している間も曖昧な返事を返すだけである。
だから銀時も土方とは会う機会は多かったくせに、まじまじとその顔を見詰めたりはしなかったのだが。

(…うっわ、マツゲ長ェ)

異常事態に際して銀時が最初に思ったのはそれだった。
あまりのことに頭が一瞬ついていかなかったのである。
ぼんやりと突然間近に迫った真白いおもてを馬鹿のように硬直して眺めることもしかできない。
しみひとつついていない、ともすれば病的ともいえるその青白い肌。
女がうらやみそうな滑らかさと肌理の細かさはあれだけ煙草を吸っているはずだというのに、損なわれることは無い。
まつげは密に生え揃い切れ長の目を守っている。
伏せられがちだったそれは今はぱっちりと開いて、異人のような色をした稀有な睛が真っ直ぐに銀時を見詰めていた。
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