書庫5

□家族の肖像 こどもごころ
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千歳は困っていた。

これ以上無いほど困っていた。

眼前ですよすよと生まれたばかりの赤ん坊が眠っている。
千歳が八歳の時に生まれた末の妹、小綾(さや)だ。千歳にとっては五人目の兄弟になる。
少子化が進んでいる現在、いくら人手と保育施設があったからとはいえ三男三女をもうけた母は凄いと思う。仕事と平行してそれをやってのけたというから大したものだ。産休は少し長くもらったらしいが。
母はそろそろ三十代も後半にはいるというのだが、父親たち曰く全く衰えていないというから、また兄弟ができる可能性は残っている。先日やっと腹が空いたと言った母にそっと聞いてみたら彼はふぅと笑って、それもいいけど、一寸辛いかなと笑った。
さやが生まれた時にひと悶着あったから、多分父親たちももう母を無理をさせることはないかもしれない。

それまでの弟妹は、千歳も含めて父親たちに似た。

それでもその兄弟たちが全く似ていないのは、それぞれ父が違うからだ。そういう複雑な条件下で(しかも世間的にはそれ以上の制約があったらしいのだが)自分たちを産んだ母を、千歳は尊敬している。男のセンスはどうやらあまり良くないらしいというのは、近頃はしばしば沖田から聞かせられるのだが。

しかし末の妹―――――さやだけは、母に似た。
鴉の塗れ羽のような黒い髪も、ぱっちりくっきりとした二重の自分たちと同じ淡い浅い綺麗な色をした睛も。肌は色素が無いんじゃないかというくらい白く、その中で紅い小さな唇があざやかだ。赤ん坊とは思えないくらい深深と眠り、起きている時も滅多にぐずることはない。警戒心はないようで(赤ん坊なのだ、当たり前なのかもしれないが)ぱちぱちと長いまつげを瞬かせて小さい手で指を握り締められた日には、もう顔が崩れてしまうのではないかと千歳は思う。父たちは実際崩れていたが。

しかし、多分この妹のせいなのか、それとも母親のせいなのか―――――
千歳、七歳にして思春期の前に立ち、すこうし他の少年らと違う悩みを抱え込むことになってしまった。
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