書庫5

□家族の肖像 親子喧嘩 七歳編
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三歳まではまだ愛らしかった、と思う。
突拍子もないことをよく言って高杉を困らせたりはしていたが、夜中布団に潜り込んできたり(最初の一回は引っ張り込んだのだけれど)してきたものだ。子供の暖かい体温は冬場ゆたんぽのようで、だが抱き込んで心まで暖かくなれる湯たんぽなんて他にはない。
そう、高杉はなんだかんだいって幸せだった。


しかし不幸というものは、この男に降りかかるようになっているらしい。

「父上、きらい」

寺子屋から帰って来た千歳が開口一番高杉の顔を見るなり言ったのが、情け容赦ないその一言であった。



地の底までも沈みこんだ高杉を横目に土方は困惑した。
ソファの上で三角座りしてしまった高杉は泣く子も黙る過激派テロリストにはとても見えない。ついでに言えば一児(だけではないのだが)の父親にも見えない。

「…寺子屋で何か言われたのか?」

土方は居間をちらちらと気にしながらキッチンテーブルの付属椅子によじ登る千歳に聞く。今日のおやつはホットケーキだ。普段は作っている余裕はないが、たまにある非番の日はちゃんとこうして手作りおやつを作るようにしている。すっかり子供中心の主婦業が身についてしまった土方である。
そんなエプロン姿の母親を見て、千歳はうん、と頷いた。
途端様子を窺っていた父親たちの耳がダンボのようになる。
何しろ千歳は、わけありの子供だった。
同世代の友達も居ないで真選組のゴツい大人たちに揉まれて育つのもどうかということで、先年度から寺子屋に通い始めたのだが何しろ親が親だ。
母親(そろそろ土方は訂正をするのに疲れてしまった)が真選組副長、父親が超過激派テロリストである。
一応籍は土方の方に入っているから対外的には「土方千歳」なのだが、年々高杉に似ていく千歳は何かとからかわれることがあるらしい。寺子屋では賢い子供だと評価されているのだが、父親たちを間近で見ているからだろう。時々ばっさり世間を斜め切りにしてしまうこともあるというから目を付けられやすいのかもしれない。
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