書庫5

□家族の肖像-親子喧嘩三歳編-
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二歳くらいまではかわいかったように思う。


親子喧嘩 三歳編(壱)


自分があやすとすぐに泣き止んで(それは土方もだったのだが)高杉はうれしかった。
他の男たちでは無理で、自分の血のせいなのか気難しい千歳は幼いながらもきっと親が誰だかがわかっているのだと思っていた。この家にいる全員が全員、子供たちにとっては親も同じで、血だとかいうものを高杉は信じていなかったのだけれどそれでも高杉はうれしかったのだ。

最初に千歳が喋った言葉は「としー」だった。

母親(というと本人は怒る)なのだし土方が一番千歳と居る時間が長かったからそれは仕方が無い。だが次に千歳が覚えた言葉は「しん」だった。
顔が崩れるかと思うくらい高杉はうれしかった。

だがそのかわいらしさというものは残念ながら三年目を迎える前に崩れ去ってしまったのかもしれぬ。
短かった。
千歳は賢い子供であって、一寸ばかり知恵がつくのが早すぎたのだった。

「ちとせ、もうちちうえとおふろはいらない。」

宣言された瞬間目の前が真っ暗になった。
その後自分が何かしたのだろうかと本気で考え込んだ。しかしなぜか千歳は自分以外には相変わらずなついていて、人を奈落の底に突き落としたくせ当の本人はうれしそうにはしゃいで坂本の手を引くと小さい歩幅で風呂場に向かって廊下を走っていったのである。

何だその差は。

思わず脱力すると、ぽんと肩をたたかれる。気がついたら両脇に哀れむような顔をした銀時は桂が立っていたのだった。
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